顕微鏡を知る:被写界深度

凹凸のある対象物でもピントがあうための、被写界深度を深めるテクニック

デジタルマイクロスコープでプリント基板(PCB)を観察、深度合成機能(EDOF)を使って、ピントがあった画像を生成 PCB_imaged_with_EDOF_using_digital_microscopy.jpg

顕微鏡において被写界深度は、凹凸の変化が⼤きい構造を持つ試料をピントがあったシャープに観察・撮像するために重要なパラメータです。被写界深度は、開⼝数、解像度、倍率の相関関係によって決定され、解像度とパラメータは反⽐例の関係にあります。被写界深度と解像度のバランスが最適になるように調整することができる顕微鏡もあります。

光学顕微鏡の被写界深度

ISO/EN/DIN規格では、物体側の被写界深度は「像⾯と対物レンズの位置が維持されたまま、像のシャープネスを検出可能な程度に損なうことなく物体を移動させることができる物体⾯の両側の空間の軸⽅向の深さと定義されています。 [1]

被写界深度に関して、1927年[2]に実験結果を発表したのは当時ライツ社に在籍していた光学設計者マックス・ベレクです。 ベレクが唱えた公式は被写界深度についての数値データを与えるため、今⽇でも使⽤されています。

TVIS = n [λ/(2 × NA²) + 340 μm/(NA × MTOT VIS)]

TVIS視覚的に感じる被写界深度
n:標本と対物レンズの間の媒質の屈折率
λ:使⽤する光の波⻑。⽩⾊光の場合は550nm
NA: 開⼝数
MTOT VIS 顕微鏡の全倍率

上記の式で、総合倍率を⽩⾊光(λ = 550 nm)照明での有効倍率範囲、すなわち500 x NA < MTOT VIS > 1,000 x NA [3] に置き換えると、第⼀近似として、被写界深度は開⼝数の⼆乗に反⽐例することがわかります。

特に低倍率では開⼝絞りを絞る、つまり開⼝数を⼩さくすることで被写界深度を⼤幅に向上させることができます。しかしながら、開⼝数を⼩さくすると、解像度は低下します。

したがって、対象物の特性に応じて、解像度と被写界深度の最適なバランスを⾒つけることが重要です。 ⾼解像度の対物レンズ(⾼NA)と開⼝絞りを調整できる顕微鏡を使い適切に調整することで、サンプルに応じたパフォーマンスを発揮することができます。

実体顕微鏡における被写界深度と奥⾏き知覚

奥⾏き知覚とは、観察者から対象までの距離や、対象間の距離を認識する能力で、距離の知覚とも言われます。そのため片目ではなく両目で [4]観察することが重要で、左右の⽬の網膜上に別々に形成される像の間の視差は、奥⾏き知覚において重要な役割を果たします。

⼈間の脳のこの現象を⽰す例として、グリノー実体顕微鏡による試料の視覚化があります。 左右の光路のピントが合う観察⾯は互いにわずかに⾓度をなしています。 図2で示したように、網掛けされた部分全体にピントが合っているように⾒えるが、実際には左右どちらの眼で⾒ても、ピントは合っていません。

実体顕微鏡は、生物あるいは工業用顕微鏡に⽐べて⼤きな試料を観察することが多く、倍率よりも被写界深度が重要視されるケースが多くあります。

実体顕微鏡による被写界深度と解像度の向上

ライカマイクロシステムズは、実体顕微鏡の解像度と被写界深度の逆相関を回避、両立するための画期的なFusionOptics[5]技術を開発しました。 観察者が接眼レンズを覗いている間、⽚⽅の⽬には、解像度が⾼く被写界深度の浅い像、同時に、もう⽚⽅の眼は解像度は低いながらも、被写界深度の深い像を人間の脳に送ります。

⼈間の脳は、2つの別々の画像を、より⾼い解像度と被写界深度の両⽅を特徴とする1つの最適な全体画像に組み合わせることができます。

デジタル画像における被写界深度の拡⼤(深度合成)

光学顕微鏡の被写界深度は、デジタルイメージングによって拡⼤することができます。

ライカのLAS Xソフトウェアは、被写界深度を拡大(EDOF)させるための深度合成機能を提供します。 高さ方向を動かして複数の画像を取得し、それぞれからピントが合った部分を抽出して1枚の画像に構築すれば、全てにピントが合った画像を得ることができます。

参考⽂献

  1. ISO 10934:2020: Microscopes - Vocabulary for light microscopy, in Terms and Definitions 3.1.36, International Organization for Standardization.
  2. M. Berek, Grundlagen der Tiefenwahrnehmung im Mikroskop (Elsner Verlag, Berlin, 1927) 33 pages.
  3. A. Schué, J. DeRose, What is "Empty" Magnification and How can Users Avoid it? The relationship between magnification and resolution for optical, light, and digital microscopy and knowing the useful range, Science Lab (2024) Leica Microsystems.
  4. P.B. Hibbard, A.E. Haines, R.L. Hornsey, Magnitude, precision, and realism of depth perception in stereoscopic vision, Cognitive Research: Principles and Implications (2017) vol. 2, no. 25, DOI: 10.1186/s41235-017-0062-7.
  5. D. Goeggel, A. Schué, D. Kiper, C. Müller, What is the FusionOptics Technology? Leica stereo microscopes with FusionOptics combine high resolution and depth of field for ideal 3D perception of samples, Science Lab (2023) 
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